セミナーレポート / Seminar Report

Sustainable Open Innovation Seminar 「社会と知のフロンティアを拓くAI for Science」

2026年5月21日 TFC×TEL×RMC協働プロジェクト Sustainable Open Innovation Seminar「社会と知のフロンティアを拓く AI for Science」が開催され、東北大自然言処理研究グループ 坂口 慶祐教授、情報通信研究機構(NICT)徳田英幸先生が登壇されました.  ここ数年で、生成AIは私たちの日常や学術研究、さらには社会のあり方を大きく変え始めました。ご講演では、”生成AIの仕組みと社会実装の最前線、私たちはどう向き合うべきか”生成AIの核心的な仕組み、社会への応用、そして未来への展望について紹介されました.

1. 生成AI(大規模言語モデル)の仕組み

ChatGPTなどの生成AIは、「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれる技術を基盤にしています。
生成AIの基本原理は、「次に続く言葉を予測すること」です。
膨大な文章データを学習し、文脈に応じて最も自然な単語を確率的に選びながら文章を生成しています。この分野を大きく進化させたのが、2017年に登場した「Transformer」という技術です。
従来は苦手だった長い文章の文脈理解が可能となり、現在の生成AIの基盤となっています。
また、AIは単語を「ベクトル」と呼ばれる数値データとして扱い、言葉同士の意味的な関係を計算しています。
さらに、「Self-Attention(自己注意機構)」によって、文章中の重要な単語や関連性を判断し、自然な文脈理解を実現しています。近年は、「モデル規模・データ量・計算資源を増やすほど性能が向上する」という「スケーリング・ロー(規模の法則)」が、生成AIの急速な進化を支えています。

2. AIを「賢く、安全に」育てる工夫

単に大量のデータを学習させるだけでは、AIは差別的な表現を生成したり、事実とは異なる情報(ハルシネーション)を出力したりすることがあります。そのため、現在の生成AIには「より安全で適切な応答」を行うための追加学習が施されています。

インストラクション・チューニング
人間の指示に対して適切に応答できるよう、追加学習を行う手法です。これにより、AIは「質問に答える」「要約する」といったタスクを自然に実行できるようになります。

RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)
AIの回答を人間が評価し、「より人間にとって望ましい回答」を返すよう調整する手法です。現在のChatGPTなどでも広く活用されています。一方で、過度に「人に好かれる回答」を優先すると、必要以上に迎合的になるといった副作用も指摘されています。

3. 社会実装の最前線 ― 科学、翻訳、防災へ

AIはすでに研究段階を超え、実社会への導入が急速に進んでいます。近年では、専門分野に特化したAI開発も活発化しています。

多言語翻訳と同時通訳
NICT(情報通信研究機構)は、30年以上にわたる研究をもとに、高精度な同時通訳システムを開発しています。また、特許・医療・製薬など専門領域に特化した「翻訳バンク」によって、翻訳業務の効率化も進んでいます。

科学研究の加速(AI for Science)
AIは、新薬候補の探索や分子構造の提案など、科学研究の支援にも活用されています。近年では、「AIサイエンティスト」と呼ばれる概念も登場し、AIが科学的発見を加速させる存在として期待されています。

社会課題への活用
災害時にSNS情報を分析して被害状況を把握するシステムや、自動運転車の安全性向上など、AIは社会インフラの分野でも活用が進んでいます。安全・安心な社会を支える技術として、今後さらに重要性が高まると考えられています。

4. 私たちが直面するリスクと課題

生成AIは大きな利便性をもたらす一方で、さまざまなリスクや課題も抱えています。

セキュリティ上の脅威
AIを使ってソフトウェアの脆弱性を高速に発見する攻撃手法も登場しています。その一方で、AIシステム自体を攻撃や不正利用から守る「AIセキュリティ」の重要性も急速に高まっています。

環境負荷と雇用への影響
大規模AIの学習には莫大な計算資源が必要であり、膨大な電力消費や高コストが問題視されています。また、事務作業や文章作成など、一部のホワイトカラー業務がAIによって代替される可能性も現実味を帯びています。

ソブリンAI(AI主権)
特定の巨大IT企業が開発したAIだけに依存すると、各国固有の文化や価値観が反映されにくくなる懸念があります。そのため近年では、自国のデータや言語環境を活用した「ソブリンAI(AI主権)」の重要性が注目されています。

結び:AI時代を生きるための指針

AIの仕組みがますます複雑化し、技術の進化スピードも加速する中で、私たちはどのように向き合っていくべきなのでしょうか。
坂口先生は、「自分の頭で考えることをやめないこと」「知的好奇心を持ち続けること」の重要性を強調しています。

生成AIは非常に便利な一方で、その回答は平均的で無難なものに収束しやすい側面もあります。
だからこそ、これからの時代には、人間同士が刺激を与え合いながら、新しい発想や創造性を生み出していくことが、より大きな価値を持つようになるのかもしれません。
AIを使いこなすだけでなく、「何を問い、何を創るのか」。その姿勢そのものが、これからの時代にますます重要になっていくでしょう。

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