生成AIの急速な普及に伴い、その利便性とリスクの境界線が法廷で争われる事態となっています。AIによる「非弁行為(無資格での法律業務)」を巡り、主要企業が提訴される初の事例になるとみられています。 参考情報:Reuters
1. 訴訟の概要と背景
日本生命の米国法人は、ChatGPTが弁護士資格が無いにもかかわらず法律業務を取り扱ったことは州法違反であると主張し、計1030万ドル(約16億円)の損害賠償を求め中西部イリノイ州の連邦地裁に訴状を提出しました。
2. 解決済みの紛争をAIが「蒸し返し」
事の発端は、日本生命の長期障害保険の元受給者である女性とのトラブルでした。この事案は2024年1月に一度和解が成立していましたが、和解内容に不満を持った女性がChatGPTを「法的助手」として利用し始めたことで事態が一変しました。
- AIによる法的分析: 女性は担当弁護士からのメールをChatGPTにアップロードして相談。ChatGPTは女性の不信感を肯定し、和解合意を破棄して訴訟を再開するための分析や助言を提供したとされています
- 具体的文書の作成支援: ChatGPTは、解決済みのケースを再開させるための訴状や申立書などの法的文書を具体的に起草しました。
- 訴訟の再燃: 女性は自身の弁護士を解雇し、AIの支援を受けて数十件の文書を裁判所に提出。これにより、日本生命側は終了したはずの紛争に再び対応を迫られ、多大な時間と費用を費やすこととなりました。
3. 争点:AIの回答は「情報提供」か「法的助言」か
日本生命側は、ChatGPTによる具体的な法的文書の作成や訴訟戦略の提示が、イリノイ州で禁止されている無資格での法律実務(非弁行為)に該当すると指摘しています。また、有効な和解契約に対する不当な干渉であり、司法手続きの濫用であるとも主張しています。対するOpenAI側は、この訴えには「いかなる根拠もない」と反論しています。同社は2025年10月に利用規約を改定しており、ChatGPTが個別具体的な法的助言を行えないよう設計変更を実施済みであると主張しています。
4. 今後の展望
この裁判は、AIが生成する回答が単なる「一般的な情報提供」の範囲に留まるのか、それとも「個別具体的な法的助言」にあたるのかという法的な境界線を定義する重要な試金石となるでしょう。AIをビジネスや日常生活のツールとして活用する際、どこまでが「アシスタント」としての許容範囲なのか。今後の判決の行方に世界中の注目が集まっています。